自閉症　Cross World　−第２回−

 

【感覚異常その１-聴覚-】

　自閉症の方々の世界は異文化の世界です。それを意識上でしっかり確認した後、今度は、そうと知りながらその異文化の世界へ豊かな想像力を武器にして渡ってみることにしましょう。（豊かでないと駄目ですよ、貧弱な想像力ではとても向こう側へは渡れません）

　ではまず始めに次の二つの状況を身体ごと想像してみて下さい。（頭の中だけではない五感全てを使ってという意味です。）

　１．　あなたは机に向かって勉強をし始めようとしています。ところがガラスに爪を立てて、引っ掻くときのあの音が（誰もが思わず「止めて！」と叫んでしまうあのキーキーキーッという音です）引っ切り無しに聞こえてきます。その音は自分で止めることもできず、誰かに頼んでも止めてもらえず、永遠と続きます。さて、そのときのあなたの気持ちは？あるいはこんな状況に置かれたあなたに引き起こされる行動は？

　２．　あなたは食事をしています。突然あなたの真後ろで風船が割れたような大きな音がしました。あなたが食事の席に着くときには、風船などどこにも見当たらなかったのに突然そんな音がしたので、あなたはとてもびっくりしました。振り返って原因を探りますが、その音の原因は見当たりません。そこで安心してまた食事を始めますが、すっかり安心した頃また突然大きな音が耳元近くでします。さて、そんなことが永遠と続きます。もちろん、あなたはこの場所から逃れることができません。さて、そのときのあなたの気持ちは？あるいはこんな状況に置かれたあなたに引き起こされる行動は？

　『例えば誕生パーティー。私にとっては拷問に等しかった。ノイズ・メーカーが突然ポンポン鳴って

かもし出す混乱が、私の心臓が飛び上がるほどびっくりさせた。いうまでもなく、私は反射的にそばにいる子どもをたたいたり、灰皿であろうと何であろうと、手当たりしだいに部屋の向こう側を目がけて投げつけたりしたものだった。』テンプル・グランディン　「我、自閉症に生まれて」P32

　予測することが困難な不快な刺激が、この世の中に満ち満ちて、それが自分の力では排除することも、コントロールすることもできないときに、人間は何を感じ、どんな行動を起こすのでしょうか？

　自閉症の異文化を理解しようとするとき、これを想像することなしに共感の世界は生じません。

【必読図書】

フランクル著作集１「夜と霧−ドイツ強制収容所の体験記録」　みすず書房　1890円